第2回目の今回は、「腑に落ちるは腑に落ちない」です。
別に、日本語として、腑に落ちる、が正しいか正しくないか、を論じる訳ではありません。
言葉が示す通り、腑に落ちてしまう事を鵜呑みにしてはいけない、と云う意味です。
法人を営んでいますと、必ず出会すのが、被営業です。
自社も営業している訳ですから当たり前ですが、営業される側、と云う立場でもあるのです。
そんな中、営業各人のセールストークスキルは別にして、非常に分かり易いサービスや製品内容、と云うものがあります。
簡単に云うと、一目で良いと思う、若しくは、直ぐに、良いサービスだと理解出来てしまう内容の事です。
要は、短時間で“腑に落ちて”しまった訳です。
ちょっと待って下さい。
疑ってかかる必要はありませんが、簡単に腑に落ちる、つまり、納得してしまえる様な内容に期待は出来ますか?
端から、期待しない、のであればOKです。
しかし、何かを期待しているのであれば、それは浅はかと云えます。
パンフレットと簡単な説明で済む様な製品やサービスであれば、そもそも営業スタッフは“不要”です。
ホームページを持っており、Webマーケティングをしっかりと行っていれば、わざわざ営業を向かわせる必要がありません(認知させる目的としてのPush型マーケティングは必要ですが)。
つまり、分かり易い内容の製品やサービスを欲する場合、その機能だけを充分、理解出来るだけのテキストと写真の説明で済みますから、営業との面会時間を作って迄、話す必要等ないのです。
敢えて、時間を作って迄、営業と話をするのであれば、そのサービスや製品を利用する上で、どれだけ、サポートや値引きをしてくれるか、個人的な力量や誠意を見たいぐらいの話です。
上記のサービスや製品の場合、それそのものを被営業者は、予め知っている事が前提であり、競合他社から選択し得る材料、謂わば、駆け引き材料を引き出す為だけに営業は存在し、いざここに関してだけ云えば、腑に落ちる内容で充分だと云えます。
しかし、被営業者が、そのサービスや製品について、殆ど知識を持ち合わせていない場合や全く知り得ないものであった場合、簡単に理解出来てしまう事は、危険な事なのです。
被営業者、つまり、貴方が今迄に知らなかったサービスや製品についての説明を受け、これをすんなりと理解出来てしまうのは、貴方の理解力が第三者よりも高い訳ではなく、営業者、乃至は、営業会社のセールスマーケティングが功を奏しているだけなのです。
端的に云って、営業が上手い、のです。
では、営業が上手い会社のサービスや製品のクオリティが高いのかと云えば、そうとは限りません。
であるからこそ、疑問を抱く事が肝要であり、疑問を抱かない様な説明を受けた場合、返って重要な何かから目を逸らさせられている可能性があるのです。ミスディレクションの可能性を疑って下さい。
セールス的にヒットした「もしも野球部の女子マネージャーがドラッガーの『マネジメント』を読んだら」や「超約ニーチェ」を読んで、ドラッカーやニーチェを理解したつもりになっている方は、注意が必要です。
セールス的なヒットには、エンターテイメント性やキャッチーさが多分にあり、本質的な品質とは決して合致し得ないのです。
これは上記二作品を否定しているのではなく、ヒットさせた上手さとアイデアを賞賛し、しかし、これを受信側と云う立ち位置の時、自身のリテラシーを誇るべきではない、と云う苦言の為の一例です。
Webマーケティングが浸透し、その一部として、広告業界ではポピュラーであったコピーライティングやベイティングの技巧が部分的に解放された事で、説明が上手い営業、或いは、アプローチが増えているのは事実ですが、これを趣味として購入する場合を除き、ビジネスにおいて活用する際には、慎重さが必要になります。
具体的には、分かり易いと思えるものは、分かり難いものよりも粗悪な可能性が内在し、これを開放する作業を怠ってはならず、その品質を見極める労力を惜しんではいけない事を意味しています。
例えるのであれば、儲け話には裏があり、裏を取らなければ乗ってはいけない、と云う事です。
では、どの様に裏を取って行けばいいのか?
腑に落ち様が腑に落ちまいが、疑問に思った事は次から次に質問しましょう。
その質問の答えが、論理的に淀みがなければ、信頼するに値します。
営業にやって来た人間の個人スキルに左右されてしまうトーク力にではなく、最初に受けた説明と質問における回答との整合性、これに注目して下さい。
説明と回答との間に不一致が見られたり、的を射ない回答であれば、追い返しましょう。時間を割くだけ無駄です。
これを理解しておけば、自社営業に活かす事が出来ます。
そしてこれは、自社の人事採用や査定にも転用出来ます。
メリットとデメリットとでは、常に前者が先に語られます。
であるからこそ、腑に落ちる内容は、腑に落ちないものとして扱うのが、妥当なのです。
腑に落ちない内容は、そもそも質問を沢山するでしょうから、問題ありません。重要なのは、簡単に腑に落ちてしまう環境、注意力が散漫になってしまう場の雰囲気や状況をリセットする事なのです。